200515

連日のすっきりと晴れきっていた青空を遮るように、薄いグレーの雲が全体を覆っていた。カーテンを開けて部屋を出て、リビングに降りる。ひんやりとしていた。

やかんに水を入れて火をつけ沸騰するのを待つ。いつものオレンジ色のマグカップを出して、ドリップコーヒーをセットした。いいにおいが広がっていく中、今日は何をしようかと考え、読んでいる途中の又吉さんの東京百景という本を読むことに決めた。

東京百景には、又吉さんが東京に越してきてから見てきた風景や体験談が本当に100個書かれている。好きな作家さんの本を読み始めると、はじめの1ページ目からその作家さんの語り口調に引き込まれ、胸の内側をぐぅーっと押されて息が詰まる感じがする。これから始まる又吉さんの世界に期待が高まり、早く読みたいという気持ちに読むスピードがついていけていない。スタート地点で足踏みしているような、夢の中で思うように足が動かず速く走れない感覚と似ていた。以前読んだ又吉さんの作品で出てきた話が、本人の実体験をもとに書かれたエピソードと知った時は興奮したし、シュールな体験が又吉さんらしいユーモアで書かれていて本を抱きしめたくなった。

夕方、徒歩5分の祖母の家に行く時間になったので、部屋着のショートパンツからスラックスに履き替えた。ショーツを下ろし、足先で蹴り上げて両手でキャッチした。今にも雨が降り出しそうな天気が一日中続いている。肌寒かったので、スラックスの生地が素肌にあたる感触があったかくて気持ちがいい。半分ほど残っていた2杯目のコーヒーを勿体ないと思い、多めに一口飲んだが、冷え切っていたし、急いで飲むのも流してしまうのも変わりがない気がしてシンクに捨ててしまった。

最近いい天気の日が続いていたので、薄暗い夕方を懐かしく感じた。薄暗いといっても5月の4時過ぎなので、太陽が薄い雲に遮られている程度の明るさだ。両側に田んぼが広がる道を歩きながら、一面に覆われている雲を確認するように空を見上げてみた。この空気感のせいか、音がよく響いている気がした。周りの音がやけに耳に入る。マンホールの下を通る水の音や、田んぼを耕す機会の音、工事現場の音、子供たちの遊ぶ声、靴が地面を蹴る音。

さっきから気づかないふりをしていたが、靴の中に小石が入っている。それが、足の下に潜り込むたびに刺さって痛い。雨が降る前に祖母の家に到着できた。